第8章 品質がソニー・ブランドをつくる

めざすは不良ゼロ。0.1%ではない

 「今まで広く行われている作業方法を全部“不良の出る作業方法”であると、いったん定義することから始めました」
 岩手県にあるソニーイーエムシーエス千厩テック(当時・ソニー千厩)では、品質面での改善をダイナミックに進めてきた。その陣頭指揮にあたってきたプロダクト製造部門 部門長(当時)の 高山金次郎の発言である。製造治具や作業方法はもとより、手順書などすべてを根本的に見直すのだ。めざすは不良ゼロ。たとえそれが0.1%であってもゼロではない。厳しい基準である。いったい、どのようにして実現したのか。

 千厩テックは“不良をつくれない、流せない”をキャッチフレーズに、次のような方策をとった 。
 まず、不良がゼロにならない原因をすべて洗い出し、改善案を作成する。それを1ヵ月間実行してみて、本当に不良が出ないとわかったものを作業標準とする。次に作業標準を文書化する。「信じられる内容を記している」ということで、ここではそれを“バイブル”と呼んでいる。それから、バイブルどおりにできるよう、作業者を訓練していく。
 すでに実装領域では「誤極性」「誤部品」「部品落下」などで発生する不良がゼロとなる方法を 確立。次に「静電気」などの問題に取り組んだ。一方、組立領域では「ゴミ」「静電気」「コネクターどめ」などの不良ゼロを確立。その後「液剤塗布」「管理貼り物作業」などでの不良ゼロに取り組んでいる。
 当初は、「ソニー・スタンダード・タイム」*1よりも、はるかに時間がかかった。製造部門から「止めよう」との声すら出た。しかし1年後には、従来と同等かそれより速く作業できるようになっていた。

 これまでに実施した例をあげよう。
 たとえば、ねじ止め。普通、ドライバーを持ち、その先端にねじを付けて組み付け部分のねじ穴に差し込みねじ止めする。千厩テックではこういう作業は禁止だ。なぜか。一番の理由は、ねじの先がセットを傷つけてしまう場合があるからである。ねじ穴とドライバーが一直線になるようにして作業すればいいのだが、これは熟練者でないと難しい。そこで、ねじ穴以外をすべて覆うカバーをかけた「傷防止カバー付きねじ締め受台」を製作した。これなら、ドライバーが傾いても必ずねじ穴にまっすぐねじが入る。いわゆる“ポカよけ”の一種である。また、ねじを4ヵ所止めなくてはいけないところを、1ヵ所忘れてしまうといったたぐいの“ポカミス”も、ありえない話ではない。この対策としてねじを4本止めないかぎり、カバーが開かない工夫をした。

 従来、生産ラインを構築し、作業指導をする担当者は、作業者に作業標準を守って不良をつくらないように指導するだけだった。しかし、それをここでは自分自身に向かって問いかけるようにした。「はたして、自分の指示する作業方法は正しいのか」と。
 千厩テックがかくも厳しい品質基準を設けているのは、主力製品が携帯電話で、通信機器製造というビジネスを行っていることも大きい。
 携帯電話は、手のひらに収まる小さなキャビネットの中に微細な電子部品を納めている。ゴミ一つ、ねじの緩み一つでも誤動作しかねない精密機器であるうえに、日常的に持ち歩くものであるため落下などの衝撃に耐えなければならず、高い品質が要求される。しかも商品サイクルが短く、需要の変動も大きいので、生産台数が急に倍増したり激減したりすることも珍しくはない。
 そこで、技術の習熟に要する時間をできるだけ短くするバイブルが用意され、治工具を初めとしたさまざまな工夫が行われているのだ。これなら、高い品質を保ちつつ短期間に大量生産できる。
 千厩テックのスローガンは「世界最強の生産方式をつくろう」。この実現には品質面そして設備面の強化が不可欠であるとして、それぞれとくに“品質革新”“設備革新”という項目を立てた。さらにムダ取りを中心とした生産革新と併せ、これら三つの革新を一本化し“工場革新”としている。
 また2003年5月からは、生産革新を製造・実装部門のみならず、総務や管理、資材など全部門に広げている。



携帯電話を生産する千厩テックでは、“不良をつくれない、流せない”をキャッチフレーズに不良ゼロに取り組んでいる。


「傷防止カバー付きねじ締め受け台」。ねじを締める部分以外は透明なカバーで覆われている。(千厩テック)


*1:ソニー・スタンダード・タイム
ソニー自社基準で算出される作業標準時間。作業ごとの標準所要時間が決められており、その組み合わせによって、モデルごとに生産に要する総作業時間が算出される。製造コストの算出に用いる。


記載されている内容は、2005年9月30日発行の冊子に準じています。

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